【連載もの】ぼんくら日記(16)

「オラが街にエレファントカシマシがやって来る」

結成して今年で36年だそうだ。公式にデビューしたのは、1988年。実は僕は彼らのデビュー当時、いわゆるエピックソニー時代のエレカシの追っかけをしていた。デーモン小暮が司会をしていた深夜の音楽番組でソニーオーディションに受かった新人たちを紹介していたのだが、そこで何秒かだけ映った彼らの演奏に釘付けになったのだ。追っかけといっても、京都の16歳だったのでたかが知れていたが、ラジオ・テレビに出れば全部録音・録画し、関西に来た時はライブに出かけた。当時はまだ1000円で見れた。

時は空前のバンドブーム。そのミーハーなシーンの中で彼らのロックバンドとしてのあり方をゼロから問い直すようなライブスタイルに僕は惹かれた。本番も会場の電気はつけっぱなし。演奏中に立ち上がって踊ると名指しで怒られる。アンコールは一切なし。MCはぶつぶつとしたボヤき。僕が観に行ったライブでは、あるときは上半身を脱いでしまい、あるときはギターを足蹴にして破壊してしまった。緊張する時間だった。新しいアルバムが出れば、スピーカーの前に座って聴き、すべての曲が終わると、息を吐いた。ボーカルの宮本浩次も1曲終わるごとに「えいっ」とか「うふぅ」とか言いながら息を吐いた。その時間がなぜか心地よかった。しかし、新しいアルバムを出すたびに従来の音楽シーンから乖離する存在になっていく彼ら。5枚目のアルバムの頃には雑誌でインタビュアーとけんか別れのような展開で終わってしまう記事もあった。僕はエレファントカシマシが荒んできているような気がしてざわつきながら立ち読みしたのを覚えている。

ひたすら純粋な曲がたくさん生まれていた。その男っぽい世界観がどんどん世間からはみ出し始めていることを感じながら、僕はウォークマンで何度も聴いた。彼らはもしかしたらこのまま消えてしまうかもしれないけど、いつか伝説のバンドとして再評価されたらいいなという淡い期待を込めて。

ある日、雑誌の片隅に彼らがレコード会社から契約解除された記事を見た。ついにこの日が来たかと思った。ああもう、あの息は吐けないのだなと観念した。
しかしそこから彼らの転換は開始される。八面六臂の活躍が始まったのだ。ドラマやCMとタイアップしたり、宮本浩次はTVドラマにも挑戦。僕はその時、よかったなぁ・想像もつかない展開になったなぁと思うと同時にもう別のバンドを見ている感覚になっていた。歌詞はもちろん、リズムも歌い方も、そしてステージングもアグレッシブなバンドだ。

エレファントカシマシを遠くから眺める年月が続く。かつての雰囲気を想起させる作風のアルバムもあったが、またぶり返すようにアグレッシブな作風も交互に出る。世間の好みは圧倒的に後者の作風。いまとなってはどちらも彼らの本質だろう。後者の歴史もセールスとともにしっかりとある。

最近のライブでは昔の曲もどんどん演奏されているという。あの息が少しだけ吐けるのか? 僕は、3回転したようなそのバンドのライブに久しぶりに行ってみたい。

Profile

山下賢二

ホホホ座1階店主

ホホホ座の連載もの

  • 『ぼんやり京都』松本伸哉
  • 『ぼんくら日記』山下賢二
  • 『絵そらごと〜こどもじみた大人たちへ』下條ユ