【連載もの】絵そらごと〜こどもじみた大人たちへ ① 百足(むかで)

絵そらごと1

 百足に刺されたら百足を漬けた油を塗るといい、と聞いたので、百足漬けに丁度いい素敵な小瓶を用意しておいた。

 翌日、さっそく百足が出た。大きいのと小さいの。絵を描いていた紙の上に、ポロッと。待ってました。喜ぶものでもないけど。いきなり二匹出ちゃうって、どうかと思うけど。恋人たちだったのかしら。百足たちをピンセットでつまんでポトン、またポトン、と油の中に落とす。ユラユラ。ごめんなさい。百足たちは油の中でクルクルとシンクロナイズドスイミングのように泳ぎ、断末魔の愛の輪舞のごとく情熱的に抱き合って静かに沈んでいった。「俺たちまた百足として生まれ変わっても、お互いを見つけて最期は一緒に油漬けになって死のうぜ」そんな声を聞いた。無伴奏チェロのような音楽まで聞こえた。気がした。ことにしておこう。百足たちのために。いや、わたしがピンセットでつままれて、百足の沼に落とされる百足地獄の夢とか見ないで今夜も爆睡できるために。

 生まれて物心ついた頃から、いや親の代から街の文化を遊び倒して来たようなわたしは、その反動でロックスターに憧れるように「自然」に憧れるようになり、土着的なハワイのジャングルで暮らしたりした。なにかを築いては壊してしまう性なのか、なにかが満タンになると、手放したくなくても手放してきた。そして必ずまたなにかが始まった。

 今は京都のお山で、おもしろい顔をした猿のような黒い犬と暮らしている。しかしわたしったらこんな風に来年50歳を迎えることになるとは思ってもいなかったわ。新しく始まった生活は、まだまだ慣れないことだらけで心細くもなるけれど、これも自由の代償なのね。精進します。いつの日か解脱を夢みて。

 日々ありとあらゆることに気づき、心が踊り、震える。草庵のようなお山のアトリエで、今までの愚行、狼藉、運命のいたずらを思い返し「わたしの人生、ほんとに小説より奇なりで参っちゃうわ」と感慨深げに夕陽を拝み、悦に入ってみたり涙を流してみたり、可笑しなことを夢想してみたり。

そんなわたしのとりとめのない絵そらごと、ため息のようにここで綴っていきます。

お言葉に甘えてよろしく哀愁です。

秋ざんす。

下條アトム

うそ

ユリ


【絵そらごと〜こどもじみたおとなたちへ〜】は以前、桑原茂→氏のmedia CLUBKINGによるdictionary 内で連載していました。

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国際的バカのエアポート軟禁事件』は勇気が出ます)


ちいさなわたしと今のわたし 〜 おとなびたこどもたちへ】

パリの素敵なパパンとママンが送るweb マガジン Chocolat Mag にて不定期連載中です。

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下條ユリ

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ホホホ座の連載もの

  • 『ぼんやり京都』松本伸哉
  • 『ぼんくら日記』山下賢二
  • 『絵そらごと〜こどもじみた大人たちへ』下條ユ