【連載もの】ぼんやり京都(7)
かなわない(著:植本一子 刊:タバブックス)
育児日記『働けECD』から5年。写真家・植本一子が書かずにはいられなかった、結婚、家族、母、苦悩、愛。すべての期待を裏切る一大叙情詩。2014年に著者が自費出版した同名冊子を中心に、『働けECD〜わたしの育児混沌記』(ミュージックマガジン)後の5年間の日記と散文で構成。震災直後の不安を抱きながらの生活、育児に対する葛藤、世間的な常識のなかでの生きづらさ、新しい恋愛。ありのままに、淡々と書き続けられた日々は圧倒的な筆致で読む者の心を打つ。稀有な才能を持つ書き手の注目作です。
(タバブックスHPより)
植本一子さんのことは知らない。
知らないで読みはじめると、どこに何をアピールしたいのか?よくわからない。
植本さんは、子を持つ女子であり、カメラマンである。立場があまりにも違うので、自然と植本さんの夫である「石田さん」のことが気になってくる。石田さんは僕に少し似ているかもしれない、いや、そっくりと言っていいだろう。どんどん石田さんの気持ちになり、戦慄する。
良いことであろうと悪いことであろうと、これは生々しい生活の記録だ、男で言えばフリチン状態だ、ヨメのフリチン(女子ですが)に付き合わされるのは、自分がフリチンになるよりつらい。
ただ、この本は、プライベートなフリチン日記にとどまっているわけではない、どこかに物語を作りたいという欲求を感じる。それはつまり、植本さんの文章が上手く、読ませるということだろう。もちろん構成、編集の妙もある。
もうかんべんしてくれ、植本さん。と思いながらも、ページをめくる手は止まらない。
冒頭にある<遺影>という章で、植本さんは二人の友人の死について書いている。その二人とも同じく、友人関係が薄れ、疎遠になったときに突然死の知らせを受けている。猫は死期を悟るとその姿を消すらしいが、人も同じかもしれない。死の知らせは、いつも虚をついてやってくる。
植本さんの日記も突然途絶える。
死んだかな?と思ったら、どっこい生きている。
意味ありげな空白地帯を挟み、<こんなことまで書きはじめて、私は誰に何を知って欲しいと思っているのだろうか。>という書き出しで、最後の日記パートがスタートする。その言葉に「知らんがな」とツッコミながら、なぜか笑ってしまう。
ここから、さらに重々しいテーマになってくるのだが、以前のような読み辛さは感じない。ひとつの「物語」として読んでいるからだろうか?植本さんは自身の深刻な現実を、なんだかんだ言いながらも無責任に放棄しているようには思えない。そこには得体の知れないパワーすら感じる。最後の章、<誰そ彼>のドタバタでなんとなくオチがつき、「何しとんねん」とやっぱり笑ってしまった。
最後まで一貫したオフビートな存在として登場する「石田さん」も素晴らしい。「ヨメが修羅場を迎えたその一方・・・」そんな場面が目に浮かぶようである。
面白く、変な本だ。
正直、まともな感想は出て来ない。ただ、会ったこともない植本さんと、本のなかで数年間一緒に過ごしただけだ。ノンフィクションがフィクションに変化し、「植本一子」が物語の主人公になっていくような、不思議な感覚。僕はその物語のなかで、寄り添いも突き放しもせず、関西弁でツッコミを入れる役を演じている。
今は、植本さんのことが少し気になっている。
そういえば自分が気になる女性は、いつも映画や小説のなかの登場人物だった。
これは恋かな?
違うか。
植本一子さんがホホホ座へやってきます。
「かなわない」(タバブックス刊)発売記念トークショー
日時:4月2日(土)19時半受付/20時スタート
会場:ホホホ座1階
出演:植本一子×山下賢二(ホホホ座)
料金:1500円(ホホホ座のお買い物券500円付)
【予約方法】
件名を「植本一子トークショー4月◯日(希望の日程、ホホホ座で参加の場合4月2日)」とし、
お名前・ご連絡先・人数を明記の上( yamatonami2016@yahoo.co.jp )
まで送信下さい。
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松本伸哉