【連載もの】ぼんやり京都(3)
高円寺のレコード店、円盤店主・田口史人氏の著書『レコードと暮らし』(2200円+税・夏葉社)には企業や団体の販促・広報用のレコード、卒業記念やご当地ソングなど、テーマが特殊な楽曲。そんな珍しいレコードが200枚以上紹介されている。
レコードとは、視覚的要素(ジャケットやブックレット)に「音」を加えた表現媒体ともいえる。楽曲だけではなく、ナレーションや朗読、環境音なども収録できる「音がでるもの」として、その用途は幅広い。
もちろんそのことは、CDの時代にもある程度引き継がれているし、インターネットの世界では、もはやあたりまえのこととなっている。ただ、レコードが親しみやすいメディアとして存在した時代は、成熟に至る過程のまだまだ初期段階。それゆえ、多少トンチンカンなものもふくめ、独創性と人間味にあふれるレコードが大量にリリースされていた。
インターネットが普及する以前、特に60年代や70年代には、「正解」や「普通」を導き出すための情報源は、今とは比べものにならないくらい少ない。
たくさんの情報をみて「これでいいのか?」と迷うのではなく、バカボンパパのごとく「これでいいのだ」と開き直る文化とでもいうべきか。本書で紹介されている『まだいる・・・日本兵』など、タイトルだけではどこにアピールしているのかわからないようなレコードでも、田口氏の解説を読むと、ゆるぎない必然性があるような気がしてくるから不思議だ。
掲載されているレコードは、いるいらない、のレベルで考えれば、ほとんどいらないものだ。そもそも本書は珍盤奇盤を紹介し、マニアの購買意欲をそそるようなカタログ本ではない。
田口氏は、それらのレコードが作られた時代背景や、人との関わりに注目し、膨大な知識をベースに想像力をはたらかせ、人の暮らしを生き生きとつづることに重きを置いている。
そこから見えるのは、「物」と人との幸福な関係だ。
求める側と、求められる側、お互いが手探り状態のなかで生まれた、愛すべき不要品たち。それらはどれも「物」としての魅力にあふれている。いらないものなのに。
疑問に対する解答や、欲しいものに瞬時にたどりつく便利さを享受しながらも、時おり、なんとなくうしろめたい気持ちになることがある。実感が薄いからかもしれない。
いわゆる「暮らし系」の世界で、自家製の梅干しや味噌をつくることが増えはじめたのも、その実感を手に入れたいからだろう。合理性をはなれたところに、ゆたかな暮らしがある。この手の暮らし系ジャンル本では王道のテーマだ。
もちろん自家製のレコードを作るわけではないが、そんなモヤモヤ感にとらわれたとき、またこの本をひらいてみようと思う。
<関連イベント>
『レコードと暮らし』発売記念「円盤、出張レコード寄席」
11月1日(日)
開場:午後7時半
開演:午後8時(午後10時終了予定)
会場:ホホホ座1階
料金:1500円(ホホホ座1階1500円商品割引券付)
高円寺で非流通商品を販売し続ける円盤店主、田口史人さんを迎えて著書『レコードと暮らし』に関連したりしなかったりするレコードを、かけたり話したり。当日は、円盤出張販売もあり!
<予約方法>
タイトルを「円盤」として、お名前・電話番号・予約人数を明記し、
までメール送信お願いいたします。
電話でのご予約・お問い合わせは、TEL075-741-6501まで。
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松本伸哉